その指先で、濡れる唇

温厚で几帳面で紳士的。

仕事はできる人だけど、基本的にはマイペース。

決して悪い人ではないのだけれど、飄々としていてどこか掴みどころがない。

それが女子たちの木村さんに対する専らの評価だ。

もっとも――私は皆とはちょっと違った見解をもっているのだけれど。

『ニッシーは木村係ってことで。探して声かけて一緒に連れてきてもらえると助かるわぁ。よろしく頼むね』

『木村係って……』

それじゃあまるで小動物のお世話をする小学校の生き物係みたいです……。

思わず苦笑しながらも、やっぱりどきどきして頬は熱いままだった。


電話を切ってすぐ木村さんのデスクを見にいくと案の定……。

机の上には充電するでもなく放置されたスマホがあり、机の下には鞄が置かれたまま。

私は皆の事務的なサポートをするという立場上、木村さんの携帯番号もメールアドレスも知ってはいる。

けれど、これでは呼び出すこともできやしない。

でも、大丈夫。

木村さんの居そうなところくらい見当はついているもの。

おそらく資料室あたりに違いない。

「よし、やっぱり行くしかないよね。うん」

私は誰ともなしに呟いて、小さな声で大きな決意表明をした。

立派な口実と、恰好の機会を手に入れて。

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