その指先で、濡れる唇
***
シンクタンクという職場だけあり、充実した情報量と設備を完備した資料室。
とはいえ、定時を過ぎれば司書の女性も退勤していてカウンターは無人だし、開架閲覧室の利用者も数えるほど。
そして、その数えるほどの中に木村さんの姿はなかった。
たぶん、書庫にいるのだと思う。
十中八九、私の予想どおり。
私の……期待どおりに。
書庫があるのは閲覧室の奥の奥。
I Dカードをかざしてドアのロックを解除する。
この建物のドアはトイレや給湯室などを除くおよそすべてが、閉まるとすぐに自動的に施錠されるシステムになっている。
もちろん、この書庫も。
中へ入ってドアが閉まるやいなや鳴る「ピッ」という短い電子音と「ガチャッ」という鍵のかかる金属音。
自動的に施錠されたドアに、まるで退路を断たれたような……。
閉鎖空間、密室……そんな言葉が脳裏をよぎる。
閉じ込められたような錯覚に、胸が一瞬ざわめいた。
それは不安か緊張か、あるいはもっと別の何かなのか。
わからぬまま、私は奥へと歩みを進めた。
シンクタンクという職場だけあり、充実した情報量と設備を完備した資料室。
とはいえ、定時を過ぎれば司書の女性も退勤していてカウンターは無人だし、開架閲覧室の利用者も数えるほど。
そして、その数えるほどの中に木村さんの姿はなかった。
たぶん、書庫にいるのだと思う。
十中八九、私の予想どおり。
私の……期待どおりに。
書庫があるのは閲覧室の奥の奥。
I Dカードをかざしてドアのロックを解除する。
この建物のドアはトイレや給湯室などを除くおよそすべてが、閉まるとすぐに自動的に施錠されるシステムになっている。
もちろん、この書庫も。
中へ入ってドアが閉まるやいなや鳴る「ピッ」という短い電子音と「ガチャッ」という鍵のかかる金属音。
自動的に施錠されたドアに、まるで退路を断たれたような……。
閉鎖空間、密室……そんな言葉が脳裏をよぎる。
閉じ込められたような錯覚に、胸が一瞬ざわめいた。
それは不安か緊張か、あるいはもっと別の何かなのか。
わからぬまま、私は奥へと歩みを進めた。