触れてほしくて


だから私は男友達への未練を断ち切るために、長く伸ばした髪をバッサリ切ってショートにした。


降りやまない雨を無言で睨んでいると、私たちの前を一組のカップルが歩いていく。

買ったばかりらしい一本の新品のビニル傘をふたりで挿して肩を並べて歩く姿は、羨ましくなるくらい仲睦まじい。

傘を挿す彼氏が、空いている方の腕を彼女の肩に回して彼女が濡れないように引き寄せる。

笑って顔をあげた彼女の長い髪を指で梳いて撫でながら、幸せそうに笑う彼。

そのカップルの姿が、不意に男友達とその婚約者の姿に重なった。


辛いな。

あのカップルは赤の他人なのに。

なんだか、虚しい。

短くなった髪のせいで首元の風通しがよくなりスースーしすぎる。

< 5 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop