闇に響く籠の歌
「聞こえなかったのか? ここには勝手に入るなって言っただろうが」

「別に中に入っているわけじゃないですよ。それに、僕の店はその先なんですから。ここを通らないと仕事にならないんですよ?」


その声に相手は「そうだったか?」という言葉を返してくるだけ。ダミ声混じりのそれに圭介は興味をもったのだろう。そっとそちらの方を覗いている。

そこにいたのは、どうみても刑事です、というような雰囲気の二人の男。この調子だと、自分たちも何か言われる。圭介がそう思ったのと、相手が彼を見つけるのはほとんど同時だった。


「で、そこにいるのは誰だ? さっさと名前と住所教えろ」

「親父さん、それはないですよ。横暴だってネットにでも書き込まれたらどうするんです」

「そんなもん、俺が知ったことか。違うか、水瀬(ミナセ)?」


そう問いかけられたことに、水瀬と呼ばれた相手は大きくため息をついている。そのまま、彼は圭介たちの方に近寄ってきていた。


「とにかく、ここは穏便にすませたいですよね」

「水瀬さんはそのつもりのようですけど、そちらの川本さんは違うみたいですよね」


圭介に声をかけてきた男が嫌そうな顔で呟く。その声に水瀬は困ったような表情を浮かべるだけ。


「柏木さん、あなたもあんまり親父さんを刺激しないでくださいよ。とばっちりを受けるのは僕なんですから。それはそうと、そっちにいるのは高校生? 月影高校の制服だよね」


水瀬の声に圭介はコクリと頷いている。そして、遥に口出しするな、というように腕をつねると、さっさと自分たちの名前を彼に告げていた。


「はい。僕たち月影高校の三年生です。僕は篠塚 圭介(シノヅカ ケイスケ)。一緒にいるのは一瀬 遥(イチノセ ハルカ)です。生徒手帳ありますし、身分証明はできると思いますけど?」


そう言いながら圭介は水瀬に生徒手帳を見せている。それとチラリと見た彼は、川本と呼ばれた相手の顔に視線を向けていた。


「親父さん、この二人、間違いなく月影高校の生徒です。別に怪しいところもないですし、このまま帰ってもらっても問題ないでしょう」

「そうだな……ま、高校生がこんなところウロチョロしてたってのは気になるが、いいだろう」

「ありがとうございます。じゃ、僕たちはここで。遥、帰るぞ」
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