闇に響く籠の歌
「遥ちゃんの疑問って当然だよね。じゃあ、こういう風に考えられないかな? 後ろに正面があるってことは、妊婦の後ろに顔があるってことだって」


柏木の声に遥は首を傾げながら考える。やがて、彼女はどこか納得したような声を上げていた。


「あ、それなら分かるかも。っていうことは、その妊婦さんは後ろから突き落とされたの?」

「そうなるね。っていうより、そう考えないと最後の言葉の意味が通じないよ。あの一言には、必ず見つけてやるっていう意味があるように思うからね」

「そうなんですか?」


確信をもって告げられる柏木の言葉に、圭介が不思議そうな声をあげる。そこまで言い切ってもいいのだろうか。そう言いたげな表情がその顔には浮かんでいる。


「圭介君、信用していないのかな?」

「ですね。遥は前からこの話を信じていたら、あっさりと信用しているようですけど。でも、僕にすれば簡単に信用できないっていうのかな」

「何事も簡単に信用しないっていうのはいいことだと思うよ。その方が真実に行きつけると思うし。ま、この話は一種の都市伝説と考えてくれてもいいんじゃないかな」


柏木のこの声にようやく圭介は頷いている。簡単に信じられることではないが、都市伝説として考えれば納得もできる。そう言いたげな色がその顔には浮かんでいる。そんな彼の様子に、遥はどこか不満気な表情をみせている。


「どこが信用できないのよ。別におかしなところなんてないじゃない」

「まあね。都市伝説として成り立つくらいの話なんだから、ある程度っていうかそれなりに整合性のある話じゃないと無理だと思うからね」

「圭介ってどうしてロマンを理解できないんだろう。これのどこか都市伝説よ」

「全部」


これ以上、遥の相手をしていたらますます話がややこしくなり。そう思った圭介は彼女の声を遠慮なくぶち切っている。そんな彼の姿に水瀬はクスクスと笑いをこぼしていた。


「柏木さんの言葉じゃないけど、本当に仲がいいんだね。いやぁ、青春だね」

「水瀬さん、どこが青春だっていうんですか?」

「全部。だって、本当に嫌いなら、ここまで相手しないだろう? 圭介君ってそんなイメージがあるよ」

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