闇に響く籠の歌
水瀬のその声に圭介は返事をしようとはしない。一方、遥の方はどう応えればいいのだろうというような顔をして水瀬と圭介と交互にみている。そんな中、川本が野太い声を響かせている。


「柏木、お前の言いたいことはこうか? どこかの妊婦が誰かに突き落とされた。で、かごめの歌は、そのことを知った妊婦の旦那が犯人への復讐の為に作った歌だっていうわけか?」


その声に柏木は黙って頷くだけ。それを目にした川本は大きくため息をついていた。


「そこの坊やじゃないけど、そんな話が簡単に信じられるか。復讐の為だなんて大袈裟な。そんなことの為にこんな歌を作るか? そんな暇があったら、さっさと復讐でもなんでもしてろ」

「親父さん、その発言は危ないですよ。仮にも僕たちは警察……」

「お前は黙っとけ、水瀬。このことは、お前さえ黙ってればばれないんだからな」


年下の相手にそうやってすごむところは刑事とはいえないのではないだろうか。そんな思いが圭介の中には生まれている。

もっとも、それを口にすればどうなるかということもなんとなく分かっているのだろう。彼は黙ったまま川本たちの様子を眺めている。


「わかりましたよ。親父さんがそう言いだしたら、人の言うこときかないのは前から知ってますからね。その代わり、何があっても僕は知りませんよ」

「心配するなって。上にばれるはずがないだろう。ほんとにお前は心配性なんだな」

「そりゃ、そうですよ。今まで何度、親父さんの暴走に巻き込まれたと思っているんです。今回もそうなるんじゃないかって思うと、怖いんですがね」


水瀬のその声に、川本は吸っていたタバコを灰皿にギュッと押し付けている。苛立ったように新しいタバコに手を出す姿に、水瀬は呆れたような声を上げることしかできなかった。


「ほら、そうやってすぐにタバコに逃げる。禁煙したって言ってたんじゃないんですか?」

「お前は世話焼きの女房か? そんな細かいこと気にするなって」

「分かりましたよ。ところで柏木さん。あなたは二つの話が一緒になっているって言ってましたよね?」


突然、話を振られたことに驚いたのだろう。柏木の大きめの目がますます大きく見開かれる。そのことを気にすることなく、水瀬は問いかけの言葉を続けていた。

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