闇に響く籠の歌
「そうかもしれません。でも、これは現実ですからね。そして、日本の警察が優秀だということも事実でしょう」

「では、先生はこれが事件で犯人はみつかるという見解でよろしいでしょうか」

「そうですね。それにこのようなことが何度も続けば模倣犯も出てきます。もっとも、警察がこの件をあまり大袈裟にしないのは、そのことを考慮しているからでしょう」


テレビの中から聞こえてくる声は穏やかなもの。だが、それを耳にした相手は体をピクリと震わせている。そこから、声を殺した呟きが漏れてくる。


「私は悪くない。そうじゃない。だって、あれは事故だったんだもの。それなのに、どうしてよ。どうして、あの時のメンバーばかりがこんな目にあうのよ……」


同じ言葉を繰り返していることに、本人は気がついていない。薄暗い部屋の中、明かりとなるのはテレビの画面だけ。

だが、それを見ている気配は感じられない。ただ、うわごとのように繰り返される言葉が部屋の中に響いていくだけ。


「私のせいじゃない……私は悪くない……それなのに、どうしてよ。どうしてなのよ……」



◇◆◇◆◇



「ねえ、ちょっと整理してもいい?」

「遥。まだこの話、続けるつもりか? ついでに、どうして学校でなんだ」


伊藤が死んだという雑居ビルを興味本位で訪れた翌日。授業が始まる前の騒がしい時間にそう声をかけてきた遥に対して、圭介は心底嫌そうな表情を向けていた。もっとも、それが彼女に通じるはずがない。そのことに気がついた圭介は天井を見上げるしかないようだった。

そんな圭介の様子に好奇心を刺激されたのだろう。奥寺が楽しそうな調子で声をかけてくる。


「篠塚、何の話してるんだ」

「別に。お前に関係あることじゃないって」

「仲間はずれ? それってイジメ? なあ、話くらい聞かせろよ」


そう言いながら、奥寺はグイグイと詰め寄ってくる。そのあまりの迫力に負けてしまったのだろう。圭介は大きくため息をつきながら言葉を選んでいた。


「別にイジメてるわけじゃないんだけどな。でも、お前は興味なさそうだったし」

「だから、何? 圭介が思わせぶりなこと言うから、気になってきたじゃないか」

「それって俺のミス?」
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