闇に響く籠の歌
ここで奥寺に釘をさしておかないと、絶対に余計なことを言う。そう思っている茜の口調は辛辣としか言いようがない。その言葉に思わず苦笑を浮かべる圭介だが、異論があるはずもない。そのまま、彼は何も言わずにグイッと遥の腕を掴んでいた。


「圭介のバカ! 痛いじゃない! どうして、幼なじみよりもクラスメイトを優先するのよ!」

「え? 当然じゃない。ここでお前の妄想に付き合っていたら日が暮れる。そんなことも分かってないわけ?」


そのまま圭介は有無を言わせず遥をその場から引き剥がそうとする。だが、彼女はそうされまいと必死に抵抗し「キーッ」と半ばヒステリーじみた声を上げている。

そんな二人の姿は、どちらかと言えば痴話喧嘩にも似ているのだろうか。思わず見ている者がそんな感想を持ちそうな時、その場の空気をぶった切る勢いで野太い声が飛び込んできた。


「おい、お前ら。性懲りもなく同じことやってるのか? 邪魔だって言ってるだろうが」


その声に圭介は思わずうなだれることしかできない。どうして、この場にこの人がやってくるのだろう。これでは間違いなく話がややこしくなる。そう思っている圭介に、容赦なく言葉が浴びせかけられる。


「おい。お前、篠塚とかいう餓鬼だろう。昨日も言ったが、あんまりウロチョロするな。これ以上目障りなことすると、マジで公務執行妨害適応してやるぞ」

「親父さん、それって横暴ですよ。なにも彼らが邪魔しているわけじゃないですし……」

「水瀬は黙ってろ。第一、学生が首を突っ込むことじゃないんだ。違うか?」

「ま、それはそうかもですが……でも、ここは事件現場っていうわけじゃないんですし……」


川本の言葉に、どこか焦ったような調子で水瀬の声がかぶせられる。それを耳にした圭介は、この人も自分と同じように苦労しているんだ、ということを今さらのように実感している。

だが、ここで彼に同情するような言葉を口にすることはできない。そんなことをすれば、機嫌の悪い川本をますます意固地にしてしまうだろう。そう思った彼だが、二人が目の前にあるアパートから出てきていた。そのことが気になったのか、フッと問いかけの言葉を口にしていた。


「それはそうと、そこのアパートから出てきたんですよね。何かあったんですか?」
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