闇に響く籠の歌
そう問い詰める迫力は相当なもの。さすが、現役の刑事だ。そんなことを考えていた圭介の反応が遅れるのは仕方がないだろう。だが、だからといって、川本が諦めるはずもない。彼はグイッと圭介の胸倉を掴むと同じことを口にする。


「おい、誰のところに行くって言ったんだ?」

「そんなこと、川本さんには関係ないでしょう。それより、離してくれませんか?」


たしかに川本の迫力は侮れない。だからといって、彼の質問に応える義務はない。そう思っている圭介は、キッパリと拒絶の言葉を口にする。それでも川本は諦める気配がない。そのことに気がついた圭介は大きくため息をつくことしかできなかった。


「分かりました。言いますよ。斎藤 綾乃っていう人のところです。これでいいでしょう?」

「なるほどな。で、お前とその人はどういう関係だ? それも言いたくないってか?」


川本の言葉にはかすかに嫌味も感じられる。そのことに気がついた圭介は思いっきり嫌な顔をするが、黙っていることができないことも先ほどのやり取りで分かっているのだろう。渋々といった調子で口を開いている。


「別に川本さんが期待しているような関係じゃないと思いますよ。そこにいる僕の友人の姉が彼女と知り合いだっていうだけです。じゃあ、約束してるのでこれで失礼します」


そう言うなり、圭介は今度こそその場を離れようとしている。そんな彼の腕を川本は掴んだまま離そうとしない。そのことに、圭介は腹立たしさしか感じることができなかった。


「川本さん、離してくれませんか? 僕はそっちの質問に答えたんですから。だったら、これ以上、引っ張る理由なんてないと思いますよ」

「理由? そんなのお前が知ってないだけでこっちにはあるかもしれないだろう?」


圭介の顔をじっと見ながら、川本はニヤリと笑ってそう告げる。その声に思わずため息をつく圭介。そんな彼に水瀬ののんびりした声が投げかけられていた。


「親父さん、それがいけないっていうんです。警察が横暴だって言われたらどうするんです。それでなくても勝手に動いているんだってこと、自覚していてくださいよ」

「水瀬は黙ってろって言わなかったか? ま、ここには警部のお嬢さんもいるし、あんまり派手なことはできないか」

「ほんとに分かってるんですか? じゃあ、僕から圭介君に説明してもいいですか?」

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