闇に響く籠の歌
柏木のその問いかけに圭介は大きく頷くだけ。その姿に柏木は満足そうな表情を浮かべるとニコニコしながら一つの提案を持ち出していた。


「だったら、圭介君の友だちが声をかけたらどうだろう?」

「お、俺が?」


突然、話を振られたことで奥寺が驚いたような声を上げている。もっとも、柏木はそのことを気にする様子もない。当然、というようにニッコリと笑うと彼は言葉を続けている。


「うん。ほら、北風と太陽の話もあるでしょう? 警察が権力振りかざして扉を叩くより、知り合いの弟が声をかけた方が効果があると思わない? 僕ならそうだけどな」

「そ、そういうものかな?」


柏木の声に奥寺は信じられないというような声を出している。そんな彼の背中を思いっきり叩いた遥が興奮したような声をだしていた。


「奥寺君、ここはやってみるべきよ! 茜ちゃんもそう思うでしょう?」

「そうよね。ここは奥寺君が頑張るのが一番筋だと思うわ。なんといっても、あなたのお姉さんからも頼まれたんだもの。そうじゃなかった?」


そう言うと、茜は思わせぶりな目で圭介の顔を見る。そこに嫌なものを感じた彼は逃げようと画策するが、それが不可能だというのが現実。そうなると、彼にできるのは思いっきり不貞腐れた顔で遥と茜を睨みつけるだけ。

もっとも、この二人にそんなことで効果があるはずがない。このことを彼が学習していないのも事実。結局、二人の勢いに圧されたように、奥寺が問題の部屋の扉を叩くしかないのだった。


「綾乃さん、いませんか? 僕ですよ。奥寺 由美子の弟、淳です。このところ、お休みしてるから姉さんも気にしてるんです。お留守ですか?」


最初こそ、遠慮がちに鳴らされていたチャイム。それがどんどんとエスカレートしていく。それを横目で見ていた圭介は呆れることしかできない。

ついでに、奥寺の姉の名前を知った時、イメージと違うんじゃないか、と思ったのは内緒。彼がそんなことを思っている間にも、奥寺はドンドンと扉を叩き、部屋の主を呼び続けていた。


「綾乃さ〜ん、ほんとにいないんですか? 返事くらいしてくださいよ。姉さん、マジで心配してるんですよ」

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