闇に響く籠の歌
自分の格好が女らしいというものからは程遠いということが分かっているのだろう。綾乃の声はボソボソとしたものになっている。そんな彼女の姿に肩をすくめた水瀬は、話の続きをうながすように「それで?」と口にしていた。


「そ、それでね……2か月前に飲みに行った人たちと気があったの。だから、また会おうねって約束したのに……」

「その様子じゃ何かあったみたいだね。なんだい?」

「う、うん……水瀬君は信じないかもしれないけど、それからその時のメンバーが一人ずつ死んでいくのよ。あの時のメンバーで残っているのは私だけ。そのことを考えると怖くなって、部屋から一歩も出たくないって思って……」

「それで引きこもりしてたんだ。なんだか斎藤さんのイメージとは違うね。学生の頃の君って、自分の思ったとおりに突っ走る部分があったじゃないか」


水瀬のその声に、綾乃は思わず顔を赤くしている。そのまま、ちょっと頬を膨らませた彼女は、それまでの様子とはまるで違った調子で言葉をぶつけてきた。


「そんなこと言わないでよ。水瀬君だって、私と同じ経験したらそう思うわよ」

「どうだろう。一応、僕も刑事なんだよ。いろいろと修羅場もくぐってきている。ちょっとしたことで、斎藤さんみたいに引きこもることなんてできないね」

「そうなんだ。でも、私だって好きで引きこもってたわけじゃないわよ。だって、一人ずつ死んでるのよ。次は私かもって思ったら、怖くて外に出られなかったのよ」


そう告げると綾乃はキッと水瀬を睨みつけている。その姿は先ほど部屋から飛び出してきたものとはまるで違う。そう思った圭介は口をポカンと開けることしかできない。しかし、そんな彼の様子に気がつかないように水瀬と綾乃の舌戦はますます激しくなっていくようだった。


「ほんとに水瀬君って冷たいところあるのね。よく深雪があなたと結婚したって思うわ。彼女だったら、もっといい人みつけられたんじゃないの?」

「斎藤さん、君が深雪の友だちだったってことは知ってるよ。でも、そこまでのことを言う権利が君にあるの?」


綾乃の言葉に冷ややかな調子で水瀬が応えていく。その声に言いすぎた、と思ったのだろう。彼女の顔色が一気に悪くなる。だが、一度口に出した言葉が返らないというのも事実。だからこそ、バツの悪そうな表情で水瀬を半ば睨みつけている。

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