闇に響く籠の歌
「それこそ、その時にならないとわからないことです。でも、困っている人は助けないといけないじゃないですか。それって人として当然のことじゃないですか?」
圭介の言葉に綾乃はフンっと鼻を鳴らしている。そんな彼女に柏木がまた声をかけてきていた。
「じゃあ、あなたが彼女を突き落とした、なんてことはないんですね」
「当り前じゃない。誰が友だちをつき落としたりするの? 馬鹿なこと言わないでよ」
「でも、あなたは彼女を助けようとはしなかった。それってどうしてですか? 落ちてすぐに救急車を呼ぶなりタクシーで病院まで運べば助かったんじゃないですか?」
柏木のその声に綾乃はキッと唇を噛んでいる。そんな彼女の様子に追い打ちをかけるように柏木が言葉をぶつけていく。
「ねえ、これにも答えてくれないんですか? ま、友だちが倒れているのに助けようともしない薄情な人なら当然かもしれませんね」
「何よ! どうして、そんなこと言うのよ。たしかに深雪が落ちたのをそのままにしていたわよ。でも、それのどこがいけないのよ! 私は早く帰りたかったの。それがいけないことなの?」
綾乃の言葉は完全に自己弁護のものになっている。そのことに気がついた圭介たちはため息をつくと顔を見合わせるだけ。そんな中、どこか冷たい響きを含んだ水瀬の声が聞こえてくる。
「たしかにそのことをいけないとは言えないだろうね。夜中だし、早く帰りたかったのも分かる。だったら、どうしてそんな時間まで深雪を引っ張っていたの?もっと早い時間に解散していたら、君もそんなこと思わなかったでしょう?」
「そ、それは、そうだけど……」
水瀬の追及に綾乃はしどろもどろになっている。そんな時、柏木が彼女に鋭い声をかけていた。
「ねえ、斎藤さん。あなたは深雪さんのこと、妬んでたんじゃないんですか?」
それまで柏木の口から深雪の名前が出たことはない。あくまでも『彼女』という表現であって、どこか他人事のような口調だったはず。それが今はハッキリと名前を口にしている。そのギャップに綾乃はどう返事をすればいいのか分からなくなっているようだった。
「妬んでるって、そんなことないわよ。深雪とはホントに仲が良かったんだから。あの子が結婚してからでも遊ぶくらいにね。それなのに、どうしてそんな言いがかりをつけてくるの? 信じられない」
圭介の言葉に綾乃はフンっと鼻を鳴らしている。そんな彼女に柏木がまた声をかけてきていた。
「じゃあ、あなたが彼女を突き落とした、なんてことはないんですね」
「当り前じゃない。誰が友だちをつき落としたりするの? 馬鹿なこと言わないでよ」
「でも、あなたは彼女を助けようとはしなかった。それってどうしてですか? 落ちてすぐに救急車を呼ぶなりタクシーで病院まで運べば助かったんじゃないですか?」
柏木のその声に綾乃はキッと唇を噛んでいる。そんな彼女の様子に追い打ちをかけるように柏木が言葉をぶつけていく。
「ねえ、これにも答えてくれないんですか? ま、友だちが倒れているのに助けようともしない薄情な人なら当然かもしれませんね」
「何よ! どうして、そんなこと言うのよ。たしかに深雪が落ちたのをそのままにしていたわよ。でも、それのどこがいけないのよ! 私は早く帰りたかったの。それがいけないことなの?」
綾乃の言葉は完全に自己弁護のものになっている。そのことに気がついた圭介たちはため息をつくと顔を見合わせるだけ。そんな中、どこか冷たい響きを含んだ水瀬の声が聞こえてくる。
「たしかにそのことをいけないとは言えないだろうね。夜中だし、早く帰りたかったのも分かる。だったら、どうしてそんな時間まで深雪を引っ張っていたの?もっと早い時間に解散していたら、君もそんなこと思わなかったでしょう?」
「そ、それは、そうだけど……」
水瀬の追及に綾乃はしどろもどろになっている。そんな時、柏木が彼女に鋭い声をかけていた。
「ねえ、斎藤さん。あなたは深雪さんのこと、妬んでたんじゃないんですか?」
それまで柏木の口から深雪の名前が出たことはない。あくまでも『彼女』という表現であって、どこか他人事のような口調だったはず。それが今はハッキリと名前を口にしている。そのギャップに綾乃はどう返事をすればいいのか分からなくなっているようだった。
「妬んでるって、そんなことないわよ。深雪とはホントに仲が良かったんだから。あの子が結婚してからでも遊ぶくらいにね。それなのに、どうしてそんな言いがかりをつけてくるの? 信じられない」