闇に響く籠の歌
「かもね。でも、私だって普段はちゃんと考えてるもの。こんなこと言ったら、誰からも引かれること簡単に分かるでしょう。だからじゃない。でも、水瀬君は刑事さんでしょう? それなのにそんなこと思ってたんだ。やっぱり、あなたも甘ちゃんなのね」

「好きに言ってれば? どちらにしても、そんなことを考えていた人が深雪の友だちだったなんて考えたくもないから。じゃあ、君は深雪のことが嫌いだったから彼女が落ちた時もそのままにしていたんだ」


水瀬の声に綾乃はギュッと拳を握りしめている。そのままワナワナと体を震わせた彼女は、ハッキリした声を出していた。


「ええ、そうよ。だって、あの子のこと嫌いだったもの。わざわざ助ける必要ある? 好きな人の間に赤ちゃんできたって、これみよがしに自慢してくるような嫌味な子だもの」


綾乃がそう叫んだ時、柏木がこれ見よがしにため息をついてくる。そのまま、彼は彼女に対して容赦のない言葉をぶつけていた。


「だから、深雪さんをベロベロになるまで酔っぱらわせたんだ。妊娠しているのにそんなにお酒飲ませるなんて、非常識だよね。で、彼女が足を滑らせて落ちたのを見殺しにした。これって人としてどうなんだろう」

「な、何よ! あなたにそんなこと言われる理由がないわ! 別にあなたは深雪の恋人でもなんでもないんでしょう? そうよね。だって、あの子の旦那様は水瀬君なんだものね」

「そんなこと関係ないでしょう。それとも、ご主人とか恋人じゃなきゃこういうこと言っちゃいけないんですか?」


柏木のその言葉に綾乃は何も言い返そうとはしない。それでも不満は隠すことができないのだろう。苛立ったような表情がその顔には浮かんでいる。


「斎藤さん、黙っているってことは自覚があるの? そうなんだね」

「何よ! ほんとに何が言いたいのか分からないわ! 何も私が深雪を突き落としたんじゃないんだから! それなのに、どうして私が悪いみたいに言うの? 私がしたのって、あの子が落ちたけど救急車を呼ばなかっただけじゃない。それなのに、私が悪いみたいなこと言うなんておかしいじゃない。ほんと、信じられないわ!」

「信じられないのはこっちですよ。普通じゃ考えられないことしているのに、開き直っているんですからね。自分がやったこと、分かっているんですか?」
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