黒瀬くんの恋模様。
「たしか5歳くらいの時かな…。千尋が投げた石が私の頭に当たって怪我したこと、覚えてない?」
それを言われた途端に頭がズキンと痛む。
12年前のこと…
少しずつ記憶が呼び戻ってくる。
「その時ね私千尋に意地悪したの」
文香は少しだけくすりと笑った。
「『ちーちゃん、痛いよ。ちーちゃんのせいですっごく痛いよ。』」
文香は小さい子供が話すように少し甘えたように話した。
ちーちゃんとは文香が昔呼んでた俺の呼び方。
たしか小学校に入ったくらいの時に女みたいな呼び方が嫌で無理に千尋って呼ばせた気がする。
「そしたらね、千尋が『どうしたら痛くなくなる?』って心配そうに聞くから『ちーちゃんがずーっとふみのこと大好きでいてくれたら痛くなくなるよ』って言ってやったの」
得意気に言う文香に俺は呆れる。
俺、そんなこと言われてたのか…
「そしたらその時はユウコちゃんが好きだったのに本当に私を好きになってくれて。まぁ私もそのことを思い出したの最近だったんだけどね」
それで、俺に縛られなくてもいいって言ったのか…
「お前は俺のこと好きにならなかったんだな」
思わず声になった本音。
ずっとずっと長い時間一緒にいたのに俺を好きにならなかったのかよ…