黒瀬くんの恋模様。
「あんた、知らないの?早坂はずっと他に彼女がいるわよ。」
「…んだよそれ。アイツは!?知ってんのかよ!?」
文香の胸ぐらを掴みたいと思ったのは初めてだった。
「言えるわけないじゃない…!それに千尋にこのこと相談してるんだとばかり思ってた。…ってことはあの子その事知らないで付き合ってたの?」
「当たり前だろ…」
俺は自分の額に手を当てた。
どうしたら涼は傷付かない?
何でもっと早くに気付いてやれなかった?
ふと文香を見ると、手を震わせていた。
「あ、あたしのせいで…あたしが教えてあげなかったせいで…涼が傷つく…」
目に涙を溜めて呆然としている文香。
俺は文香の手を握り、大丈夫だと呟いた。
それと同時に考える。
どうして頭を撫でてやれなかったんだ?
文香の手を握る前、俺の手は一度頭のそばまで来ていた。
でも文香の髪に触れる直前に、躊躇した。
なぜか頭を撫でるのは涼だけにしたいと思って…
「…ふっ」
文香の声が聞こえ、俺の視線は文香を捉える。
「断言するね。千尋は涼を好きになる」