黒瀬くんの恋模様。
「って!」
気付いたときには早坂を殴っていた。
「…黒瀬くん」
涼は大きな目にたくさん涙を溜めて俺をみつめる。
早坂は俺に殴られたことに腹を立てて迫ってきた。
自分が彼氏だと言い張り、ラブホに連れ込もうとしてるのも同意の上だと答えた早坂に怒りを覚えた。
てめえには他に大切な奴がいるんだろーが。
俺がそう言ってしまえば早坂は少なからず動揺するだろう。
そうすれば責め立てるのに好都合なんだが…
そこまで考えて涼を見る。
涙を堪えるように眉間にシワを寄せているその顔に触れたくて、頭を撫でてやりたくて仕方がない。
涼は何もしらないんだ。
ここで簡単に早坂の恋愛事情を暴露してしまっては、涼が傷つく。
そしてきっと一人で泣くんだ。
そう思うと胸が締め付けられるように痛かった。
気持ちに気付いてしまったからには、誤魔化せない痛み。
俺は手を握りしめた。
『その手で涼を救ってね』
…そんな威力俺にねーよ