黒瀬くんの恋模様。
「それ、黒瀬く…」
「文香~」
それ、黒瀬くんは知ってるの?
そう聞こうとしたら、少し低くて柔らかい声に遮られてしまった。
「黒瀬くん…」
黒瀬くんはん?と言うような顔をすると、ふみちゃんの方を向いてしまった。
…っ!
私は顔をしかめる。
だって、今度は胸が痛みだしたから。
その場所を胸と言っていいのか正直わからない。
体の奥の奥。
自分でもよくわからない部分がズキズキと痛い。
「教科書借りに来た」
「ったく!千尋って昔から忘れっぽいよね」
私の分からない会話で作られていく二人の世界。
昔の黒瀬くんには、どう頑張っても会えない。
それは分かりきっていること。
でも、それでもやっぱり会ってみたかったななんて思っちゃって
最終的には、幼馴染みだったら良かったのにとなってしまう。
幼馴染みだったら、私のところに教科書借りに来てくれた?
放課後以外もたくさん話してくれた?
私のこと好きになってくれた?
「…っ!」
私は思わず自分の口を押さえた。
…私、黒瀬くんに好きになってもらいたいの?