黒瀬くんの恋模様。
「…で?どうしたんだ?」
しばらくして私が泣き止むとそう言って話を切り出してくれた。
「…た、たいしたことじゃないんです。そんな見ず知らずの人に迷惑をかけるわけにもいきませんし…」
屋上にある時計をみると、授業が始まる5分前だった。
「本当に色々ありがとうございました。授業始まるし、教室戻りましょう?」
私は少し微笑んで見せて、屋上を出ようとした
「…え?」
それなのに引っ張られた右腕。
状況が分からずにキョロキョロしていると
「俺は3年の川上晴樹」
私の腕をつかんでいる人が、話し出した。
「周りのやつらはハルって呼んでる。まぁ、一応受験生だけど授業には出てない。美大に進むつもりだから授業は関係ねぇんだ。」
私はどうしていいか分からずにただ話を聞いていた。
「なんか、知りたいことあっか?」
急に話をふられ、肩がびくっと反応する。
「え?あ、あの…どうして私のこと知ってたんですか?」
ぱっと浮かんできた疑問。
どうして一つ下の私のことなんか知ってたんだろう…
最初は目を丸くしていた先輩は、少しすると笑い始めた。
「…くっくくく。あの橘涼がまさか鈍感だったとはな…。お前を知らない奴なんかこの学校にはいねぇよ」
口角を上げ、目尻を下げて笑った先輩はすごく優しく見えた。