黒瀬くんの恋模様。
「千尋、今誰のこと考えてた?」
震える文香の声で現実へと引き戻される。
「誰のことって…」
「…誰のこと?今、私たち誰にも会わなかったよね?」
文香の言葉に目を見開く。
また、無かったことにしようと…
「…何もなかったよね?」
そう言って俺の手を握った文香の手は震えていた。
そんな状況になると俺も文香の手を握り返して
「…誰のことも考えてない。誰にも、会ってねぇよ」
そう言うしかなくて
「だよね」
なぁ文香。
こんなこと続けても意味がないのは分かってるよな?
逃げてたってどうにもならないって気づいてるんだろ?
だから、そんなに怯えてるんだろ?
それでも、それを口に出して言ってやれない俺は
背中を押してやれない俺は
三年前のあの日から何も変わってないよな
ごめんな文香
俺もきっと怖いんだろうな
ずっと逃げてきたあの日と、ハル先輩と向き合うのが。