君恋 ~あの夏の記憶~
桐谷先輩が待ってるといけないから、ドキドキしながら体育館を覗いた。
「桐谷先輩!あ、あの…今日は用事があるんであたしさ、先帰りますねっ‼︎」
先輩の返事を聞かずに来た道を戻ろうとした。
パシッ
「待てよ」
先輩の声が聞こえると同時に、あたしの右腕が掴まれた。
「結奈さ、なんか今日俺のこと避けてない⁇」
真剣な表情をした桐谷先輩はあたしの目を真っ直ぐに見据えて言う。
こんな状況にも関わらず、あたしの胸は大きく高鳴っていく。
「俺、結奈のこと好きだから避けられると結構キツイんだけど…」
その言葉に驚いて顔を上げると、掴まれていた右腕が引かれ、あたしは先輩の腕の中にいた。
先輩に抱きしめられているせいで「え…」とくぐもった声があたしの口から漏れた。