ラスト・プレゼント(さようなら と、愛してる。)
―…
気付けば もう すぐ其処まで、春が迫っていた。
家の中には、
相変わらず、貴方と″私″だけ。
″彼女″の匂いは、何処にも しない。
後は溶けるのを待つばかり の 雪景色を、窓から眺める。
貴方は珍しく調子が良いらしく、
自ら すすんでキッチンに立って、コーヒーを淹れていた。
久し振りに鼻歌を唄って…、
″蛹はコーヒーはダメだから、ミルクね~″
なんて言いながら、
″私″の分も用意しようと してくれてる みたいだった。
″私″は そんな貴方の様子を背中で感じながら、
心地いい貴方の子守唄に、うつら うつら と、微睡んでいた。
―ガシャンッ…
突然 食器が床に落ちたような音がして、
ビクっと、目が覚めた。
でも…、
思考が はっきり してくると、
貴方は案外 抜けてる所が あって、物も よく落としてた事を思い出して、
″またかぁ~…″って、可笑しく なってしまった。
だから いつもの ように、
″やっちゃったよ~″
って、貴方の、大して焦っても いない声が聴こえて来る前に、
″もう1度 寝ちゃおうかな″なんて、暢気な事を考えていた。