ラスト・プレゼント(さようなら と、愛してる。)




本当は″彼女″は…、

あのまま連れ去られた訳ではなく、この家に1度、戻って来た。


それは きっと、

貴方に買い物して来た物を、渡す為。




″彼女″は貴方に心配を掛けない為に、

1度 戻って来て、いつも通りに振る舞った。


夕食だけでは なくて、

次の日の朝の分も、その次の日の分まで、用意して行った。


…自分が出来る、限界まで。




それは″彼女″の、

最後まで譲れなかったポイントだったんだ と 思う。


″貴方に心配を掛けたくない″って事と、″最後は、いつも通りの貴方の笑顔を見て居たい″って、事。




あの時は分からなかった けれど…


″彼女″は きっと、″逃げも隠れも しないから、それだけは″って、

男の人に、お願いしたんだ と 思う。




…その時の″彼女″の気持ちを思うと、胸が痛んだ。




だって″彼女″は…、


男の人と一緒だった所を もし誰かに見られたら、心ない人に″浮気してる″って思われてしまう事も、

それが何らかの形で貴方に伝わってしまうかも しれない事も、全部 分かってて、

それでも、最後まで貴方の心配だけを して、最後まで貴方の側に居たかったんだから。




誰に疑われても、

貴方だけには疑われたく なかった と、思うのに……。






おばさん達の話で、

その男の人は、最近この辺で幅を利かせてる悪い人の一味なんだ って事が、分かった。




…やっぱり″彼女″は、自分の意思で貴方から離れたんじゃ なかった。




それは分かって よかった と 思うけれど、

同時に、大きな″何か″に巻き込まれて しまったんじゃ ないか という事実と不安が、

重く心に圧し掛かった。





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