仕事しなさい!
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その晩は兄夫婦と海士とごはんを食べ、泊めてもらった。


翌日から、私は近所の旅館や隣町の旅館を点々とすることにした。

もともと、夏場の海水浴客を当て込んだ土地だ。
シーズンオフは格安で泊まり放題。
たまに、大学生のゼミナール合宿にぶつかるけれど、それさえ避ければ静かな時間が過ごせる。


私はまず、町の南端の海岸付近に宿をとった。

何をするでもなく、旅館の窓から空を眺めたり、砂浜で海を眺めたりするだけ。

波が少ないせいかサーファーも少ない。

遠く、船が通る。

私は持ってきた文庫を開いては、すぐに置いてしまう。
活字は頭に入ってこない。


こうして、時間を過ごせば、心は軽くなるだろうか。


色んなことから、逃げ出してここに来た。

もう、考えたくなくて、
早く忘れたくて、
日常から離れた。
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