黄昏の真心
黄昏の真心
美しく咲き誇った花々に、朝露が光る。
それは宝石のように輝き、広い庭を明るく照らしていた。
さわさわと揺れる木々の間からは小鳥達の声が聞こえ、毎日変わらない朝の風景が広がる。
色彩豊かな蝶の羽が動く。音もたてずに花弁の上に止まると、其処で羽を休め甘い蜜を吸う。
刹那、羽を休めていた蝶が飛び立つ。
何かに驚いたのだろう、その動きは慌しかった。
「あっ!」
天高く舞う蝶の姿に、悔しそうな声が発せられた。それに続き溜息を漏らした少年は肩を落とし、どうして蝶を逃してしまったのか考え込む。
胸の前で腕を組み考え込むが、明確な答えは見つからなかった。それどころか考えれば考えるほど、複雑な迷宮に嵌まり込む。
「貴方の動きに、問題があるのよ」
その時、少年の背に鈴を転がしたような声音が投げ掛けられた。その声に少年は振り返ると、バツの悪そうな表情を浮かべている。
その表情に少女はクスっと笑みをもらすと、蝶を逃がしてしまった少年に厳しい言葉を投げ掛けた。
それは、決して責める内容ではない。
寧ろ、珍しいという意味合いが強かった。何故なら、少年はそれを知るだけの力を持っていたからだ。
しかし少年は頭を振ると、これについて否定の言葉を返す。
彼に言わせれば、そのような力を有してはいない。それは買い被りであり、そのように言われるのが辛かった。
「本当に、珍しい」
「全てが予知できるのでは、ありません」
「でも、凄いと思うわ」
「そうでしょうか。僕は、人間ですから」
「そうかしら」
言い訳に近い言葉に、少女は笑い出してしまう。それと同時に少女の黄金色の髪がさらさらと音を鳴らし、大きく揺らぐ。
それは秋に色づく麦穂の如く美しく、少年は思わず見とれてしまう。
呆然と立ち尽くす少年に、少女は「どうかしたの?」と尋ね、首を傾げていた。
だが、少年は瞬時に言葉を発することができなかった。
「いえ、何も」
流石に、見とれていたとは言えない。
少年は頭を掻くと少女に背を向け、徐に天を仰いだ。
それは照れ隠しのようなもので、その行為自体特別意味などなかったが、ぎこちない仕草は違和感を生み出す。
その素っ気無い態度に少女は肩を竦めると、今日の予定を尋ねる。
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