黄昏の真心
フローネに独自の個性というものを持って欲しいと考えるが、その点に付いては考えることはない。
フローネはその生き方そのものが個性豊かで、特に社交界での振る舞いは普通では有り得ない。
しかしフローネのことを考えると、クラウスは激しい脱力感に襲われる。
「クラウス様」
「様は、付けなくていいよ」
「そうでしょうか。クラウス様は、国王陛下からの信頼が篤いです。ですので、私達とは違います」
「同じだよ。だから、様は付けないでほしい」
「は、はい」
クラウスの言葉に侍女は大きく頷くと、口許に微笑を浮かべる。
そして新たに紅茶を注ぐと、ひとつの質問を投げ掛けた。それは個人的な内容のものであったが、クラウスは怒ることはしない。
「やっていない」
「そう……ですか」
「昔は、やっていたけど」
「でしたら――」
「フローネ様にも、言われた」
質問の内容は「恋占い」に関したことであった。女という生き物は自身の恋愛事情を気にしてしまうもので、恋占いに嵌るのは身分や年齢に全く関係なかった。
その面白い心情に、クラウスは面白いと思う。無論失礼だとわかっていたが、笑いを止めることはできない。
「笑わないで下さい」
「皆、同じ反応だから」
「女というものは、このようなものです」
「それ、わかるよ」
しかし、それ以上は何も言わない。
占いの結果で、人生を左右してほしくなかったからだ。占いによって人生を左右されるのは馬鹿らしいもので、道を決める切っ掛けにしか過ぎない。だからこそ、本気にしてしまえば身を滅ぼす。
占いは、一歩間違えれば毒薬に等しい。
「占って、もらえますか?」
「どうだろう」
このように求められるのは、これがはじめてではない。
勿論、フローネの件は含まれない。つまりそれ以前から恋占いの催促をされ続け、流石このように求める者が後を絶たないと、恋占いを再開してもいいのではないかと思いはじめる。
また、恋占い自体億劫ではない。