黄昏の真心
しかし、今ではない。このようなことよりも、もっと大きな使命が待っているからだ。この国の行く末を見てからでも、遅くはない。
それに一度許してしまえば後が続き、恋占いに重点を置けば重要な内容を占うことができなくなってしまう。
そう、例の件が関係していた。
「クラウス……さんの占いは、凄いと聞いております。的中率が高くて、一流の腕を持っていると」
「買い被りすぎだよ」
「そうでなければ、国王陛下が頼ることはいたしません。ですので、恋占いの的中率も……」
「考えておくよ」
クラウスにとって、そのように言うしかなかった。このように言わなければ、いつまでも食い下がってくる。
そうなると、本来の仕事ができなくなってしまう。
正直、邪魔に等しかった。
「本当ですか! 嬉しいです。他の者達にも、知らせませんと。きっと皆、喜びます。誰もが、占ってほしいと思っていましたから。恋占いをするようになったら、教えて下さい。皆で、来ますので」
この言葉だけを聞いていると、勝手に物事が進められてしまっている。女性の予想外の力に、クラウスは圧倒されてしまう。
それにより何も言い返すことができず、ただ無言で頷くだけ。
「ところで、仕事は?」
「あっ! 残っていました、これで失礼します」
話に夢中になってしまったのだろう、侍女は本来の仕事を忘れていた。もしクラウスが指摘しなければ、永遠と喋り続けていたに違いない。
女は占い好きであり、喋り好きの生き物。
その両方が合わさった時、相手が一人であってもこの威力を発揮するのだから堪らない。
なら、複数集まったとしたら――
考えるだけで、良い気分はしない。
フローネの相手で苦労しているというのに、これ以上の苦労が舞い込むとは――クラウスにしてみれば、その場から逃げ出したい気分になってしまう。
侍女が部屋から出たことを確認すると、大きな溜息をつく。そして、自身が今やるべきことを行った。
テーブルの上に、この街の見取り図を広げる。これは国王より特別に渡された物なので、詳しく描かれていた。
この街の近くに流れている川が、いずれ氾濫を迎える。決して大きな川ではないが、氾濫すれば一溜まりもない。
人間が造り上げた城壁は崩れ、木の葉のように流される。そして残るのは、無残な姿。
所詮、天候の前では人間が生み出した文明文化というものは無力だ。