黄昏の真心
「いや、気にしなくていい」
馬鹿らしい質問だと判断したのだろう、国王は気にしないでいいという。
しかし、珍しく動揺していた。フローネはあのような性格なのだから、気になってしまうのは仕方がない。
「下がっていい。用があれば、呼ぶ」
「御意」
これ以上の話は、互いを困らせてしまう。
無論、この意見にはクラウスは賛成であったが、正直居辛い。国王との会話でこれほど辛いことははじめてで、立ち去れるのは有難かった。
クラウスは一礼を残すと、廊下へ出て行った。
後方で聞こえるのは、扉が閉まる重い音。それと同時に、溜息がつかれた。
これで、多くの民が――
命が奪われないことに、ホッと胸を撫で下ろしてしまう。このことでまた、クラウスの評判が高まる。
そして――
「クラウス!」
物思いに耽りながら考え事をしているクラウスの思考を遮ったのは、フローネの声であった。
彼女の声音に反射的に振り返ると、苦笑いを浮かべてしまう。フローネは疲労困憊の表情を浮かべており、どうやら愚痴りに来たようだ。
それを察したクラウスは逃げ出そうとしたが、相手はそれを許さない。
「ねえ、聞いてよ」
「何でしょうか」
「酷いのよ。何回も、怒鳴ってきたの」
「それは、仕方ありません」
「クラウスも、そのように言うのね」
フローネは自分の味方をしてくれると思っていたのだろう、頬を膨らませていた。
明らかに子供っぽいその性格に、何も言えなくなってしまう。
それは、先程の国王との会話を思い出したからだ。
「姫君として、最低限の作法は必要です」
「それも、同じですわ」
「誰もが、思うことです」
「優しい講義がいいわ」
しかし、甘えは許されない。学力に関しては何とか誤魔化すことは可能だが、立ち振る舞いでは嘘をつけない。
特に、咄嗟の動作。
其処に、その人が今まで受けてきた教育が表れるもの。それにフローネはこの国の王女なので、他の者達以上に嫌でも視線を集めてしまう。