黄昏の真心
「今日は、地理の勉強をいたします」
「そう、ちょっと苦手なのよね」
「なりません。世界のことを――」
「世界のことを知らなければ、政は行うことはできない。そうでしょ? クラウス。これは、お父様の口癖」
「左様です」
クラウスと呼ばれた少年は振り返ると、深々と頭を垂れた。その堅苦しい態度に少女は視線を横に向けると、溜息をついていた。
自由奔放の生活を行う少女にとって、敬意を示すことは何よりも嫌いであった。
それに互いの付き合いは思った以上に長いので、形式は必要なかった。
しかし、クラウスは立場を重んじる。
自身の目の前にいる少女は、この国の王女。
行く行くは王位を継ぎ、女王になる身。
仲の良い関係であったとしても、超えてはいけない線が存在する。
「占い師だけでは、やっていけないの?」
「家庭教師は、副業です」
「頭がいいわ」
それは社交辞令ではなかったが、クラウスは本気で受け取ることはしない。
もし受け取ってしまったら立場が覆ってしまうので相手に敬語を使い、自身が置かれている立場を表す。
「占いって、面白いのかしら」
「面白いという問題では、ありません」
「世の中には、恋占いというのがあると聞きました」
「僕は、それは行いません」
クラウスが行うのは、吉凶占いや天候占い。以前は、恋占いも行っていたというが、あることを切欠に行わなくなってしまった。
それは、どのような事柄か――しかし、話すことはない。
要は、必要などないからだ。
占いの結果など、占う者の感情で様々に決めることができる。それにそのようなもので運命を左右されるのは馬鹿らしいと考えるが、クラウスは口をつむぐ。
「そう、残念だわ」
「行うべきでしょうか」
「いいわ」
王家の人間として生まれたからには、結婚相手を自由に選ぶことはできない。たとえ好きな相手がいようが、告白など言語道断。
だからこそ恋占いなど求める自体、間違っている。
しかし、興味がないわけではない。
もし可能であったら、少女は占って欲しいと考えていた。