黄昏の真心
現に王女フローネには、想い人がいた。
しかし相手は、クラウスではない。
二人は、家庭教師と教え子の関係。そして、悩みを相談する相手。だがそれ以上に、王女と平民という関係が強い。
やはり、越えてはいけないものはある。
「では、ひとつ質問をいたします」
「何でしょうか」
「明日のお天気は、何かしら」
「明日は、良い天気です。フローネ殿下」
クラウスは利き腕を胸元に当てると、深々と頭を垂れた。
決して嫌味で行ったわけではなく、これこそクラウス也の敬意の示し方。堅苦しいことを嫌うフローネだからこそ、滅多に膝を折らない。
しかし、今日のフローネの機嫌が悪く、些細の行為であろうと臍を曲げてしまう。最近、怒りっぽい一面が表に出すぎている。
それには様々な要因が関係していたが、クラウスに言わせれば我儘なことであった。満たされた環境で生活を送っているからこそ、周囲が見えない。
そして、八つ当たり。
クラウスとフローネは主従関係なので反論はできないが、時には言わなければならない時もある。
それが、今であった。
「フローネ殿下。いえ、フローネ様」
「何かしら」
「この前の社交界での出来事ですが……」
「あれは、仕方がなかったのです」
「そうでしょうか」
余程、恥ずかしいことがあったのだろう。フローネの顔は、徐々に紅色に染まっていった。口をつむぎ言葉に発せずとも、クラウスは知っている。
現にその場に彼が立ち会い、決定的とも呼べる現場を目撃してしまった。それにあれは褒められたものではなく、寧ろイメージとしては最悪。
フローネは王女として、幼い頃から厳しい教育を受けてきた。
そのひとつとして、社交界での立ち振る舞い。王家の人間として恥じないように……ということは、社交界がはじまる前に言われていた。
長い時間、我慢できるほどフローネの精神は完璧ではない。王家の姫君という崇高な存在として生まれていようが、彼女は普通の人間に代わりない。
よって嫌いなものは嫌いと素直にいい、我慢の限界は態度として表してしまう。
だが、結果は散々なものとなってしまった。