黄昏の真心

 だが可愛いと思ったことは、一度としてない。

 そして、難しい勉強が開始された。


◇◆◇◆◇◆


 太陽が真上から少し傾きかけた時刻、クラウスは自室に篭っていた。それは有意義な時間を楽しんでいるわけではなく、フローネの勉強方針について考えていたのだ。

 先程の授業で思ったことは、ただひとつ。

 やはり、もう少しだけ内容を簡単にするということであった。

 しかし、簡単すぎては大切な部分が疎かになってしまう。

 フローネは、一国の姫君。

 ある程度の知識を有していなければ、いい笑いものになってしまう。それを思うと、必然的に厳しくなってしまう。

 紙の上にペンを走らせるが、すぐにそれを黒く塗りつぶしてしまう。どうやら正しい勉強方針と思わなかったのだろう、クラウスはブスっとした表情を浮かべていた。

 要するに、難し過ぎた。

 今まで、これほど難しいと思ったことはなかった。どの教え子も素直で物覚えがよく、手を焼いたことは一度としてない。

 だからこそこのような壁にぶち当たったのは、はじめてだった。

(せめて、基礎さえ――)

 嘆いたところで、フローネの知識量が増えることはない。なら全てを有りのままに受け止め、それを良い方向へと導かないといけないだろう。

 それがクラウスの役割であり、使命に等しかった。

 だが、時として挫折感を味わってしまう。最近特に、それが酷くなってきた。

 考えたところで、適切な回答が見つからなかった。それどころか、悩めば悩むほど頭が痛くなってしまう。

 この場合、休憩が必要だろう。

 最近、フローネと一緒にいることが多いので、ゆっくりと休む機会がない。

 そしてそのフローネは、マナーという名の躾が行われている。

 本人も自覚をしていたので、珍しく真面目に受けると決意をしていたが、果たして――しかし、信じてやらなければ可哀想だ。

 クラウスは椅子から腰を上げると、細かい模様が目を惹く白いカーテンを開いた。

 その瞬間、眩しいほどの光が差し込んできた。思わず目を細めてしまうが、徐々に光に慣れてきた。

 その時、ひとつの災難が舞い込む。何と予想外の突風が、部屋の中に侵入してきたのだ。それにより、テーブルの上に置いてあった紙が宙に舞った。

 クラウスは慌ててそれらを掴もうとするが、上手く掴むことができない。その為、舞い飛ぶ紙に面白いように翻弄されてしまう。


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