黄昏の真心
「……ああ」
最後の一枚を掴もうとした瞬間、思わず踏みつけてしまう。それも大切な内容が書いてあった紙であったので、溜息しか出ない。
其処に書かれていたのは、個人的に行った占いの結果。
それは、特定の人物を占ったものではない。もっと大きな、この国を左右するかもしれない内容であった。
だからといって内部崩壊や他国の侵略を占ったのではなく、天候占いだ。
この先、嵐が訪れる。それも、この国が体験したことのない大きさ。
それにより川は氾濫し街の一部が飲み込まれてしまうが、特定の場所に避難をすれば国民は助かると占いに出ていた。
だが、その場所を見出すことができないでいた。
それほど、場所を特定するのが困難だった。ほんの少し位置を間違えてしまえば多くの国民の命が失われてしまうので、正確な場所と向かう時間を占わなければならない。
しかし時間は、無制限に存在しているわけではない。
足型を付けてしまった紙を拾い上げると、綺麗に埃を叩く。そしてシワが目立つ紙を伸ばすと、それを持ちながら椅子に腰掛ける。そして新しい紙に、書き直すことにした。
その時、扉が控え目に叩かれた。規則正しい音にクラウスは返事を返すと、扉を叩く者を招き入れる。
どのような人物がやって来たのか、クラウスはわかっていた。このような時間帯に訪れるのは、決まっている。
相手はこの城で働いている侍女であり、甘い紅茶の香りが、鼻腔を擽る。
今まで嗅いだことのない香りにクラウスは、どのような種類の茶葉なのか尋ねる。すると侍女は、新種の茶葉だということを説明していく。
これは特別に品種改良を行った茶葉で、紅茶好きが好んで買い求めている物だという。特に、地位が高い人物が多く買い求めているらしい。
「そうですか」
「とても人気があるそうです。ですからフローネ様は、この紅茶を好んで飲まれております」
「なるほど」
その言葉は微かな声音であったので、侍女の耳には届いていない。それは好都合であった。もし耳に届いていたら、無用な質問が投げ掛けられていただろう。それにこれは、フローネに関係していた。
この世界は、流行という目に見えないモノが存在している。フローネは流行に敏感で、ついつい食い付いてしまう。
この紅茶は流行の一部だと思われるが、クラウスに言わせれば「無個性」となるだろう。
流行に乗ることは構わないが、それでは自身が持つべき個性が失われてしまう。