Chat tricolore -三毛猫とライラック‐
「ふぅ。仕事の後の一杯はしみるぅ」
彼女は可愛い顔をしておっさんみたいなことを言う。
でも
目鼻立がはっきりした華やかな顔に似合う白い肌や栗色の柔らかそうな長い髪をちらりと視界に入れると、
やっぱり可愛い子だ。
しかも私服に着替えた彼女はいつものパーカとジーンズと言ういでたちではなく、白いノースリーブのワンピース姿。
見慣れない姿にいつもの彼女と別人が座っているように見えたが、
僕が作ったカクテルを彼女はおいしそうに飲んでくれて
やっぱりそれは普段通りの彼女だった。
その姿を同じようにウィスキーのロックグラスを傾けていた僕は、物珍しそうに隣に座った彼女を眺めた。
「あ、これ?今日…てか日が変わってるし昨日か。
デートだったんです」
彼女はあまり見せることのないうっすら笑顔を浮かべてワンピースのホルター部分をちょっと持ち上げた。
さらり
肩から柔らかそうな髪が滑り落ち、
白い鎖骨が露わになって僕は思わず視線を逸らす。
ふわり
どこか懐かしい花の香り…
ライラックの香りが香ってきて僕は思わず顔を戻した。
誰でも良い。ってことじゃなかった。
僕が彼女と一緒に居たいと思ったのにはちゃんとした理由があったんだ。
「デートだったんですよ」
彼女はもう一度続けて
「私の誕生日」
僕は目を開いた。
「でも
フラれちゃったんです。
『お前は俺が居なくても大丈夫そうだから』って。毎回毎回彼氏ができるとお決まりの台詞でフラれるんです。
だから店長は気にしないでください。何かしてた方が気が紛れるし」