Chat tricolore -三毛猫とライラック‐
彼女はまるで大学のレポートを読み上げるかのように淡々としていた。
「別に平気じゃないっつうの」
またも独り言を呟いてテキーラサンライズに口をつける彼女。
その柔らかそうな髪を軽く掻き揚げ、タンブラーグラスに口を付けるその横顔は
僕が知っている彼女の姿ではなかった。
ふわり
またも空気に乗ってライラックの香りが漂ってくる。
「店長」
ふいに彼女が僕の髪に触れてきた。
前触れもなく。
意味もなくドキリとして顔を上げると
彼女は僕の前髪にそっと触れながら
「店長の黒い髪、ところどころ明るい鼈甲色。
ハイライト入れてるんですか?」
無邪気に聞かれて、僕は頷いた。
「あ、うん。一度脱色してからカラー入れるから痛むんだけど
長年この髪だしね。
もうトレードマークみたいになってるし今さら変えるのもね~
だから息子にはバカにされるんだ。
チャラいとか、チャラいとか、チャラいとか……」
言ってて虚しくなった。
「へぇ店長息子さんいらっしゃるんですか?」
「あ、うん。言ってなかったっけ?高校一年生。生意気で生意気で生意気な十六歳。
何であんな風に育っちゃったんだろう」
僕は冗談ぽく言って泣き真似。
彼女は僕の冗談を軽く流して
「そう―――?
私はきれいだと思うけどな。
ミケネコみたいで
可愛い」