Chat tricolore -三毛猫とライラック‐
朝のマルガリータ
彼女は白い顔を手で覆い、
「彼は…あ、元彼かぁ。私の好きなものとか覚えてなくて。
私は知ってるのに。
でも店長は私の好きなカクテルさりげなく覚えててくれた」
「職業柄、だよ」
「でも私はお客じゃない」
そうだね…
その言葉を飲み込んだ。
じゃぁ一体彼女は何なんだろう。
夜店に入っている彼女の顔を思い浮かべようとしたが、無理だった。
何故だか彼女の顔が思い浮かばない。
カラカラ…
シェイカーを振ると、シェイカーのボディの中で氷がぶつかる小気味良い音が聞こえてきた。
「店長の振るシェイカー
良い音……
私、大好きなんです。
何か落ち着く―――」
彼女はカウンターに両肘をついて、その上に顔を伏せた。
長い睫が白い頬に影を落としていて、ここから見る彼女の姿は
普段働いてる姿より何倍も美しく見える。
それは今が朝だからろうか。
普段見ることがないのは、店の外は夜で、店内はトーンダウンした間接照明だしゆっくり彼女の顔を確認することもないから。
でもその顔を眺めて
ようやく普段の彼女の顔を思い出すことができた。