Chat tricolore  -三毛猫とライラック‐

「どうぞ」


出来上がったマルガリータをテーブルに滑らせて彼女の前に置く。


「通説だけど、


マルガリータはロサンゼルスのバーテンダー、ジャン・デュレッサーが


若き日の恋人マルガリータが亡くなったのを偲んでつけられたんだって」


指にくっついた塩を赤い舌でそっと舐めとっていた彼女は大きな目をまばたきさせながら僕を見上げた。


何故こんなことを言ったんだろう。


僕と彼女じゃ抱えている悲しみの大きさも比重も違う。


けれど


あの時の紗依と同じ香りをまとい、どこか似た面影を宿した彼女と

今日この時間に一緒に居るのは



偶然とはいいがたい。






「僕のマルガリータは



十年前の今日に




亡くなった」







誰でも良かったわけじゃない。


僕は彼女と―――、一緒に居たかった。







彼女が想い出の香りを運んでくれたから。





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