Chat tricolore -三毛猫とライラック‐
彼女は僕の言葉に何も返さず黙ってマルガリータを飲み干し、その後二人で無言で閉店作業に取り掛かりシャッターを閉め
その後も僕たちは言葉を発することなくタクシーに乗りこんだ。
彼女を家に送り届けるために。
タクシーの後部座席に揺られて
こつん…
彼女の頭が僕の肩先に乗った。
タクシーの窓はほんのわずかに開いていて、
ふわり
柔らかい髪の感触がシャツ越しに伝わってくる。
さらさらと柔らかくて、優しい色味、
優しい―――ライラックの香りを漂わせて。
彼女が僕の手をそっと握ってきた。
「今日だけ
今日だけ私、店長のマルガリータになってあげます。
あなたの愛しい人の名前を呼んで?」
僕の―――マルガリータ。
―――紗依
手を握る。
彼女が手を握り返してくれる。
彼女の髪に触れる。
彼女はゆっくりと目を閉じる。
彼女の頬を撫でる。
僕も柔らかい髪の感触に目を閉じる。
ああ、でも
―――彼女は紗依じゃない。