Chat tricolore  -三毛猫とライラック‐


彼女は僕の言葉に何も返さず黙ってマルガリータを飲み干し、その後二人で無言で閉店作業に取り掛かりシャッターを閉め


その後も僕たちは言葉を発することなくタクシーに乗りこんだ。


彼女を家に送り届けるために。


タクシーの後部座席に揺られて


こつん…


彼女の頭が僕の肩先に乗った。


タクシーの窓はほんのわずかに開いていて、


ふわり


柔らかい髪の感触がシャツ越しに伝わってくる。


さらさらと柔らかくて、優しい色味、


優しい―――ライラックの香りを漂わせて。


彼女が僕の手をそっと握ってきた。



「今日だけ




今日だけ私、店長のマルガリータになってあげます。




あなたの愛しい人の名前を呼んで?」





僕の―――マルガリータ。




―――紗依



手を握る。


彼女が手を握り返してくれる。



彼女の髪に触れる。


彼女はゆっくりと目を閉じる。


彼女の頬を撫でる。





僕も柔らかい髪の感触に目を閉じる。







ああ、でも











―――彼女は紗依じゃない。






< 8 / 11 >

この作品をシェア

pagetop