俺様常務とシンデレラ

ああ、突然IT関連の若手起業家に見初められて専業主婦もいいかも。


もしくは、大企業の社長秘書になって世界中飛び回る。

あ、ヤバい、それ素敵。


自分でも内心バカみたいだなあと思いつつ、そんなことを考えながら人混みの中を歩いていた。

ふと暗くなった空を見上げると、少し歪な三日月が、まだ眠らない街に月明かりを降り注いでいる。



「あ、そういえば……」


昨日の夜、不思議な夢を見ていた。

妙に鮮明な夢で、だけど幻想的すぎて現実味がない。
でもその夢は、何故だか私に強烈なインパクトをもたらしたんだ。


私はそっと目を閉じて、その夢をもう一度思い出そうとした。



教会とワルツと、そしてこんな風に私たちを照らし出す柔らかな月明かり。

それから、見えてくるのは、黒いベストを着た男の子の背中で……




「いたっ!」




酔いが回って足元も覚束ないくせに、目を閉じて歩いていたから、いきなり正面から何かにぶつかって転んでしまった。

硬い地面に尻もちをついて、左足のハイヒールが脱げてしまったマヌケな格好。
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