俺様常務とシンデレラ
「おい、なんか言えよ。こっちが恥ずかしくなるだろ」
手首を掴まれ、顔を覆っていた手をべリッと剥がされる。
私はきっと、今まででいちばん赤い顔をしているはずだ。
だけど恐る恐る見上げた先で、常務の形のいい耳がほんのりと赤くなっているのを見て、胸の中に幸せな気持ちがむくむくと膨れ上がる。
「も、もう一回……?」
「二度も言わせんな。鳥肌が立つ」
「……照れ屋?」
「調子にのるな」
常務は拗ねた顔でキッと私を睨みつけたけど、赤い耳が丸見えなので、全然怖くない。
と言うか、むしろ、ちょっと可愛い。
ふにゃふにゃと頬がとろけるのをそのままに常務を見上げると、彼は呆れたように笑って、私のおでこに小さなキスをひとつ落とした。
「俺、お前のそういうとこ、すげえいいと思うよ。バカみたいに単純で、素直で。怒ったり、はしゃいだり、泣いたり、笑ったり……。見てて飽きない」
「……それって、褒めてます?」
「お前に振り回されるのが楽しいんだ。俺も大概、お前にやられてるってこと」
振り回されてるのはこっちです!と、声を大にして言いたいところだ。
だけど目の前の常務が、見たことないほど優しく眉を下げて笑うので、私はついその笑顔を食い入るように見つめてしまう。
「きっ、きゃあー!」
常務はそんな私の隙をついて、背中と膝の下に腕を入れ、ソファからひょいっと私を抱え上げた。