俺様常務とシンデレラ
転がったパステルイエローのハイヒールを見て、私は駄々をこねる子どものように、両手でペチッとアスファルトを叩いた。
「もう! なんなのっ!? 私、まだ23歳なのに! なんでこんなにお先真っ暗な、情けない感じなの!?」
あんまり考えないようにしていたけど、今の私、どこからどう見ても惨めすぎる!
梅酒が体内を駆け回り、頭がグルグルして、なんだかわけもなく泣きたくなった。
「すみません、お怪我はありませんか?」
転んだまま立ち上がることもしない私の頭上に、低くて魅力的な、甘い声が落とされた。
「え……?」
その声と一緒に、私の前に差し出された男の人の手のひら。
恐る恐る顔を上げると、濃紺のビジネススーツに身を包んだ、王子様のような男性が立っていた。
え、なにこれ?
どういう状況? まだ現実?
ぽかーんと見上げる放心状態の私を見て、その王子様は躊躇うことなく私の前に跪き、硬い地面の上で片膝を立てる。
ああ、こんな往来で!
しかもそんな高級そうなスーツ!
自分は尻もちをついたもっと情けない格好なのも忘れて、本物の王子様のようなその姿につい見入っていた。
たぶんね。
たぶんだけど、私、目をつぶりながら歩いていたせいで、この人の背中に激突したんじゃないだろうか。