俺様常務とシンデレラ
私たちはそうやって終始やいやいと言い合いを続けつつ、2週間後にオープニングセレモニーを控えたホテル『アジュール』を後にした。
* * *
「はあ……」
駅を出た私は、ため息をつきながら、アパートに向かってとぼとぼと歩いていた。
夏の夜風が髪をさらい、何度も吐き出すため息をどこかへ運んでくれる。
あたりは薄暗くなりはじめ、夏の短い夜がはじまったばかりだった。
私はアジュールから本社に戻り、理久さんに言われた通り、いくつかの変更点を盛り込んで報告書を作成した。
常務に会えるかと思って少し待ってみたけど、役員会議はだいぶ長引いているみたいだった。
報告書を提出したら帰っていいと言われていたので、常務には会えないまま会社を出て来てしまったけど……。
「会いたい、なあ……」
常務に会いたい。
どうして彼が本当の自分を見せないようにしているのか、気になり出したら止まらなくなってしまった。
しかも常務が本性を見せる相手って、私が知ってる限りでは私と夏目さんと、お父さまである葦原会長だけだ。
どうしてそこまで、頑なに隠そうとするんだろう。