俺様常務とシンデレラ

会って、あの意地悪な表情を見せて欲しい。

無防備な彼を見せて、安心させて欲しい。

常務は、なにか、ムリをしているわけじゃないよね……?



私の心はゆらゆらと不安に揺られ、迷子のように彷徨っていた。

そのとき、バックの中で携帯が着信を告げるのを聞いた。


はっ!

そう言えば、会議が終わったら連絡くれるって言ってた!

きっと、常務からだ!


慌ててバックの中をがさごそと漁り、携帯を引っ掴んで、相手の確認もそこそこにすぐに電話に出る。


「うえーん! じょーむー!」

《……なんだお前、なんでいきなり半泣きなんだよ》


電話の相手はやっぱり常務で、私の勢いにちょっと引きつつも、その口調とは裏腹に、いつもより優しい声だった。


《ちゃんと家に着いたか?》

「もうちょっとです、今ちょうど、電車降りたところで……」


私はグズグズと鼻を啜りながら、たった今聞きたくてたまらなかった、大好きな常務の声を耳元にぎゅーっと押し付けた。
< 121 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop