俺様常務とシンデレラ
常務の子どものように屈託のない表情や、不器用な優しさをいっぱいに浴びて、私の心に育った小さな花がある。
常務の声を耳元で聞いていたら、その花の香りを、電話の向こうの常務にも伝えたいと思った。
「確かに"王子様"への憧れはありましたけど、それでも私、本当の常務に恋したんですよ。たとえ本物の王子様が目の前に現れても、私は意地悪な常務を選びますから」
私は日の落ちた、通い慣れた道を歩きながら、胸を張ってそう言った。
たとえこの世界の全ての人が、常務に"偽りの彼"でいることを求めたとしても。
私だけは、ずっと、本当の常務を見つめている。
ずっと、本当の常務を好きでいる。
本物の王子様との恋よりも、ずっとずっと、素敵な恋になる予感がする!
理久さんと会って話したことで訪れた不安の嵐はすぐにいなくなり、私の心は今朝のようにうんとハッピーに戻っていた。
《……お前、恥ずかし気もなく、よくそんなこと言えるよな》
照れ屋さんな常務は相変わらず甘い言葉を返してはくれなかったけど、心なしか嬉しそうだった。
私は常務との電話を切ったあとも、ルンルンと鼻唄を歌いながらアパートへの道をスキップしたい気分で歩いて帰った。