俺様常務とシンデレラ
決心と別れ
スキップしたい気持ちを一生懸命に抑えながら、大学時代から住むアパートの近くまで辿り着いたときだった。
アパートの斜め前にある小さな公園から、ダボッとしたジャージ姿の大学生らしき男の人が、早足に道路へ出てきた。
この辺りに住む大学生かな……?
何ともなしに横目に公園の方を見ていると、その男の人を追って、くるくると巻かれた亜麻色の髪を揺らす、制服姿の女の子が現れた。
たぶんあの制服は、この近辺で有名なお嬢様学校の、中等部の制服だ。
「ねえ、待ってよ! 私、何かした? いつもがんばってお弁当作ってるし、アキくんが疲れてるときはお洗濯だってするし、お掃除だってしてるじゃない! もっと会う時間が欲しいなら、お父さまにお願いして外泊許可ももらうから、だから別れるなんて……」
「あー、もう、やめろよ。そういうのが重いって言ってんの。興味本位でお嬢様と付き合ってみたけど、やっぱなんか、合わなかったわ」
うわ、きっつー……。
自分が言われたわけじゃないのに、ギュギュッと胸が痛くなって、思わず顔をしかめる。
綺麗な巻き毛の中学生の女の子は、呆然と立ち尽くし、男の人が立ち去っていくのを眺めていた。
かわいそうだけど、私が何か口出しできる立場ではないし……。
なるべく何も見なかったフリをして、そーっとアパートに入ろうと思ったのだけど、亜麻色の髪の女の子が黙ってひとすじの涙を流しているのがチラリと視界に入ってしまい、気付くと私はその女の子に声をかけていた。