俺様常務とシンデレラ
月明かりの中、黒いベストの男の子とワルツを踊る夢を見たときから、なんとなく、御守りのように大事に付けていた。
男の子が渡してくれたこのアンクレットを付けていれば、いつか、王子様が迎えに来てくれるんじゃないかと思った。
このリボンが私と誰かを結んでくれることを、夢見ていたのかもしれない。
言ってみれば、小さい頃から手元にあったこのアンクレットは、私の"王子様像"の象徴のようなものだ。
だけど、もういいんだ。
「私はもういいの! ちゃんと、出会えたから」
憧れた恋よりも、もっと素敵な恋ができる相手。
夢の王子様よりも、もっと大好きになれる相手。
私は、目の前の常務をずっと好きでいようって決めたんだ。
「エレナちゃんも、いつか結ばれるといいね。すごくすごく好きになれて、エレナちゃんのことを、誰よりも大事にしてくれる相手と」
「絵未さん……。ほんとにいいんですか?」
エレナちゃんはまだ少し戸惑っている様子だったけど、緑色の瞳はキラキラと輝きを取り戻し、いつか出会える"運命の相手"を、探そうとしているみたいだった。
辺りは完全に暗くなり、エレナちゃんの亜麻色の髪は月明かりを浴びて柔らかく光っている。
エレナちゃんはまだ中学生なんだし、さすがにもう帰ろうと言おうとしたとき、私のバックの中で携帯の着信音が鳴った。