俺様常務とシンデレラ
* * *
「んっ……も、う……ムリ」
「まだ」
常務はキスがすごく上手だ。
いや、まあ、もちろんあちらの方も御達者でしたけど……。
透き通った夏の夜風に背中を押され、私と常務はゆっくり歩いてアパートまで帰って来た。
鼻先をくすぐる、太陽をたっぷりと浴びた草木の匂い。
月と夜風が蒸し上がった大地を少しずつ冷ましていく。
そっと指先を触れさせると、常務の左手は優しく私の右手を包み込んでくれた。
すごく穏やかな雰囲気だったはずなのに、私が部屋のドアを開けた瞬間、中に押し込まれていきなり噛み付くようにキスをされた。
常務は崩れ落ちそうになる私を強く抱き締めて、ちゃっかり部屋の鍵を閉める。
そして準備万端とばかりに、私をそのドアに押し付けてむしゃむしゃと食い尽くすように唇を重ねた。
呼吸を乱し、常務の胸に縋り付くことしかできない私。
常務はときどき私に息継ぎの時間を与え、私がなんとか息を吸い込んだのを確認すると、またすぐに唇を塞いだ。
激しいキスに翻弄され、なにがなんだかわからなくなった頃、常務は私の下唇を食み、引っ張りながらチュッと音を立ててようやく離れていった。