俺様常務とシンデレラ

「顔見たら帰るって言ったのに、俺をのこのことアパートまで連れて来たのはお前だからな」

「わっ!」


常務は繋いだ私の右手をぐんっと引っ張って、よろけた私を硬い胸で受け止める。

慌てて顔を上げると、常務はニヤッといたずらっ子のような笑みを浮かべ、私をもう一度腕の中に閉じ込めた。


「襲いたい放題だろ?」


低く甘く、私の心を震わせるように響いたその声は、さっきのキスで火照らされた身体を一気に熱くする。


「じっ、自重してください!」


かあっと赤くなった顔でキッと睨んでみても、常務はクスクスと笑うばかり。

私だけが見れる、本当の常務の、無防備な笑顔。

その瞳がすごく優しく私を見つめていたから、私の頬は更に熱くなって、胸がきゅうきゅうと締め付けられる。


薄々は気付いていたけど……。

常務って所謂、むっつりってやつなんじゃあ……。


王子様モードの常務はいつも涼しい顔だし、本当の常務は意地悪で甘い言葉なんて言ってもくれない。


燃え尽くすような熱いキスも、ベッドの中で私を翻弄する指先も、どちらの常務からもあんまり想像がつかないようなものだと思う。


常務ってもう30歳なのに、オトナの余裕に加えて底抜けの体力なんて、ちょっと卑怯だよね……。
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