俺様常務とシンデレラ

「お前はズルいよ。俺ばっかり……バカみたいにお前に惚れてる。だけど、それでも、お前には全部見せてもいいやって思わされる」


常務は少し目を伏せ、私の鼻を摘まんでいた手を離した。

小鳥が身体を震わせるように、扇形に広がった長いまつ毛が小さく揺れている。

ゆっくりと瞼が持ち上がり、濡れたように光る切な気な漆黒の瞳が、まっすぐに私を見た。


私の心臓はその黒い輝きに撃ち抜かれ、時を止める。

再び動き出すための合図は、彼だけが握っている。



「絵未。俺にも、お前の全部をちょうだい」



常務の形のいい唇が、彼の視線に釘付けにされた私にキスをする。

止まった時間を再び動かす、魔法のキス。


この人が好き。


意地悪で、子どもっぽくて、全然甘ったるくはない。

滅多に名前も呼んでくれないし、優しくするのが下手くそだし。

ずっと憧れていた、いつか出会う"王子様"とは掛け離れてる気がするのに、私の想像も及ばないほどにこの胸を疼かせる。


息もできぬほど、ドキドキする。


「大和さん……。だいすき」

「ん」


私が小さな声で彼の名前を呼ぶと、満足気に頷いて身体を起こした。
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