俺様常務とシンデレラ

目の前のこの王子様は、きっと、とても立派な職業に就ている。

学生でもないのにまだアルバイトをしているのが恥ずかしくて、とっさに適当なウソをつこうかと思ったけど、やめた。


たぶん、この王子様に会えることなんて二度とない。

それなら、こんな人と出会えた素敵な思い出を、つまらないウソで台無しにはしたくなかった。



「この通りをまっすぐ行った辺りにある、『猫丸』っていうラーメン屋さんです。アルバイトなんですけど……」



私が正直にそう言うと、「そうか」と呟いた王子様が、少し考え事をするような素振りを見せる。

だけどそれはほんの数秒のことで、またすぐにバッグに手を伸ばし、私に持たせると、私を支えながらゆっくりと立ち上がった。


王子様は背が高くて、ハイヒールを履いた私でも少し見上げるほどだった。


何か言いたそうな瞳で、私をじっと見つめている。



「常務、そろそろ……」

「ああ」


しばらく見つめあっていた私たちだけど、ふいに傍から声が掛かって、王子様がその控えめな声に応えた。

全然気付かなかったけど、どうやら王子様はひとりきりで歩いていたわけではないらしい。
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