俺様常務とシンデレラ
常務……。
私よりはいくつか年上だろうけど、それでもまだ若いのに。
立派な職業どころか、この王子様は立派な役員なんだ。
王子様、もとい、どこぞの会社の常務さまは、気を取り直したようににっこりと微笑んで、鎖骨の下で切りそろえた癖のある私の黒髪をサラリとなでた。
「気を付けて帰るんだよ」
そう言ってくるりと振り返ると、ずっと側に立っていた男の人と連れ立って、賑わう雑踏の中へと溶け込んで行った。
「き、気を付けて、帰ります……」
その背中が完全に見えなくなってから、ポツンと呟いた私のその声は、彼に届くことはなかった。
それからアパートの小さな部屋に帰り、眠りにつくまでの間、私はずーっとふわふわと浮いたような気分だった。
それがあの王子様に出会ったせいなのか、梅酒を飲みすぎたせいなのかは、よくわからなかった。