俺様常務とシンデレラ
「だかあんたがやってることは公私の分離なんかじゃねえよ。ただ大事なもんを切り捨ててるだけだろうが! そうやって母さんの想いも踏みにじったんだろ!」
今度の常務の叫びには確かな怒りが感じられ、ピリピリと肌に伝わってくる。
私はギュッと喉の奥を閉じて、自分の手を握りしめ、ただ成り行きを見守ることしかできない。
「お前は、なにを……!」
今までほとんど動揺を見せなかった会長が驚いて目を見開き、言葉を探している。
「母さんは常々言ってたよ。家庭を顧みず、仕事ばっかりの親父を"運命の相手"なんだってな。そして若くして病気で死んでいった。それが母さんの"運命"だなんて、俺は信じてねえよ!」
「きゃ!」
常務は会長を睨み付けたまま私の方へ手を伸ばし、腕を掴んで強く引き寄せた。
右腕をぎゅーっと痛いほど掴まれ、私は無意識に唇を噛みしめる。
私が身体を固くしたのを感じたのか、常務は手のひらの力を少し抜いて、自分を落ち着かせるように小さく息を吐いた。
怒りを抑えた、しかし強い意志を感じさせる声で、会長を見据えて宣言する。
「いいか、こいつはお前とは違って本当の俺を真っ正面から受け止めてくれる女だ。公私混同だろうがなんだろうが、こいつを必要以上に傷つけることは許さねえからな」
それだけ言うと、会長の答えを待つことなく背を向け、厳しい顔付きで立っていた夏目さんの横をすり抜けて、私の腕を掴んだまま会長室を飛び出した。
会長室のドアがバタンと閉じる音が、廊下に響いて聞こえてきた。